行く左側の所に、趣味の良い太めの建仁寺垣を連ねた門が見えた。そこの門標にはまぎれもなく宇佐見の名がはっきり眼についた。彼は人通りの誰もない道路の中央の所に立って、光りを除け、暫く欅の一枚板の閉った門を見つめていた。葉の細かい椎と椿の大木が門の裏側に茂っていて、そこから玄関までよほどの距離の庭があるらしかった。潜戸の隙から中を覗くと、庭いちめんの白い砂が夜気を吸いあつめ、寝静った玄関をがっしりと守っていた。矢代は一見して、その単調な厳しさからカソリックの千鶴子のしつけが頷かれた。漂う和らぎは厳しさの結果から来ているらしい。整然とした規矩もあった。矢代はこれがあの自分の夢の生い育った家だったのかと思うと、まだ旅のうつろいやまぬ夢心地も、急に醒め冷えて来るのを覚えた。もし今ここへ千鶴子が顕われて来たなら、ともに異国に遊んだその姿も別人のように見えるにちがいないと思った。彼は夢の脱落してゆく下から顕われた正体に面と対った感じで、暫くはそこから動かず立っていたが、自分と千鶴子との間に立ちはだかりて二人を会わさぬものは、争われず、この欅の門扉に厳しく顕われ出ている家風だと思った。彼は待たせてあった
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