荷物を下げて列車の中へ入っていくので、矢代は南と一緒に自分の部屋へ戻っていった。
「やれやれ、ひどい目にあった。まさか双眼鏡が、あんな所から飛び出そうとは思わなかった。うっかりしてた。」
 南はもう一度荷物を開けて中から双眼鏡を取り出すと、こ奴かびっくりさせたのは、と云いたげなにたりとした表情で弄《いじ》ってみていた。
「しかし、よくまア赦しましたね。あなたの顔が物を云ったのですよ。あのときはね。」矢代は一寸からかってみたくなってこう云いながらも、彼の双眼鏡を覗いてみた。あのときは、一種兇悪な光りを放ってあたりを睥め廻していたレンズも、今はもうただの双眼鏡だった。
「さア、これで後一時間か。」
 南はまた上衣を脱いで寝台に横になった。矢代は疲労のためひどく空転している頭を感じた。彼は上の寝台へ上らず下で煙草を喫っていたが、もうこれで何んの心配もなくなったのだと思うと腰が容易に動かなかった。それぞれ外人たちが各部屋へ戻って来たころ荷降ろしもみな済んだと見え列車はまた動き始めた。リズムに乗った弾むような快感が一層強まるのを矢代は覚えた。しかし、後一時間で満洲里へ着くとしてもその間はどこの国
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