が、どこかに笑いでは応じきれぬ激しいものもぞくぞく盛り上って来そうな不安が強まると、我知らず舞い立てて来た濛々とした疑いの煙りの中で、思わず両手を振って押し鎮めたくなり、心を国境の一点に向けようと努めてみるのだった。しかし、身体だけ無事に国境を通過させるだけでは足らず、精神もともに通り抜けようとする気持ちもおさまり難く動いてやまなかった。
いや、難しいものが来た。それも毎日来ていたものばかりなんだが――と矢代は思い、困ったときに思い泛べる伊勢の大鳥居の姿を、またこのときも自然に眼に泛べた。
「この汽車、十時間ほど遅れているから、今ごろは満洲里じゃ、待ちぼけくって弱ってますよ。」
と南はフィルムの受取人のことを思い出したものかそう云って笑った。
「国際列車の継ぎ目は、大幅に動くもんだなあ。十時間か――」
「同じ日がこのあたりで二日もあるんだから、矢代さん、ここらあたりで、日を按配しとかれないと、満洲里で電報打ちぞこないますよ。」
南から注意をうけて初めて矢代は日のことを考えた。いつも日を忘れる癖のある彼には、同じ日が二度も重なっていることなど考えもしなかったが、それにしても実に暢気
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