十過ぎの人物が、外国での最後の知人となって現れて来たのであったから、矢代も、この偶然に振り当てられた最後の旅を幸運だと思った。
「わたくしはこういうものですが、これから日本へずっと帰りますので、どうぞ宜敷く――日本人はあなたとわたしとたった二人ですよ。ではまた、荷物をしまいましてから、ゆっくりと――何しろ長いことですからね。」
矢代たちの国際列車がベルリンのゾウ駅を動き始めると同時に、戸を叩いて入って来て、誰からの紹介もなくいきなりにこにこしてこう云い出したのが、南の矢代に云った最初の挨拶だった。外国にいると最初の挨拶の仕方が何よりも気にかかり、要らざることで睨み合うことの絶えずあるのは、内地にいる人の想像も出来ない激しいものである。飛んだ面白い人が来たものだ、と矢代はこのとき思った。そして、自分もこれからする十幾日の長い車中生活に必要な荷物の出し入れにかかった。荷物の整理もついたころ、また南は矢代の部屋へやって来たが、今度はくつろいだ様子で南米の話から、日本にいる子供の病気の見舞いかたがた帰ることなど、問わない先にみな話した。ところが南は、話の途中に突然不思議そうな顔をして云った。
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