も顔もほんの小さくより見えなかった。矢代は緊張がゆるんで手応えのない感じで手を上げた。
 機体は俄に乳色の煙を草に噴きつけた。そして、大きな爆音が聞えドアが閉ると、矢代は血がどっと頭にかけ昇る思いでまた手を大きく振りつづけた。
 それからもうすぐだった。機体は地の上を辷って舞い上っていった。千鶴子は窓から黄色な手袋だけいつまでも振っていた。しかし、それも見る間に方向を変えて空高く上り、一点となるやもう矢代には何もない空だけ静かに青く見えているばかりだった。
「ほんとにあの空にはたったあれだけか。」
 と矢代は暫くぼんやりとしていてからそんなに思ったほど、空はフランス色の鮮やかな空しさで静静としていた。彼は取りとめのない泡の消えるような音を聞きつづけている思いで、待合室の隅のカフェーの椅子にひとり坐り出て来るコーヒーを待った。


 パリ祭がすむと急に避暑に散ってしまう慣しらしいパリには、なるほど人が眼に見えて少くなった。そこへ千鶴子が帰ってから二日目に、久慈と真紀子たちもマルセーユ廻りでスペインへ旅立った。ひとりになった矢代は朝から閑を持ち扱いかねて、ブロウニュの森の中を終日あちこちと
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