さまよい歩いた。ときにはまた風来坊のように、名のある古い建物の門柱についている彫刻を見て廻ったり、見残した絵を見て廻ったりした。彼はこんなときでも何かの拍子にふと空を見るようなことがあると、急に千鶴子のことを思い呼吸が空に吸いとられるように淋しくなったが、しかし、何ごともみな過去のことだと思うとまた石の間をことこと歩いた。そのうちに、見て廻る彫刻が見事であろうと絵が美しかろうと、もう何んの興味も感じなくなって来た。こんなあるとき、自動車の中で自然に手の指の触れた肱つきのダイヤルを廻すと、突然バッハのコンチェルトが聴えて来たことがあった。そのときは矢代も音楽のやむまで自動車を走り廻したが、その間は千鶴子が横で生き生きとして囁き動き、擦りよって来てはまた笑うとどまりのない愛撫を感じて一層あたりが寂しくなった。
ある日曜日の夕ぐれ、矢代は歩き疲れて食事場の方へ帰って来た。すると、人のない通りのベンチにひとり腰かけている東野が前方の寺院の方をじっと眺めているのに出会った。だんだん近よって行くと、東野の後ろで四つ五つの男の子がベンチの背の上に馬乗りになって、片足を東野の肩から胸へ跨ぎかけ、玩具
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