機が芝生の上へ降りて来た。
「あ、そうそう、忘れてたわ。チロルでカメラお買いになったでしょう。あれお別れのときいただくお約束でしたから、荷物の中へ仕舞っちゃいましたの。下さいねあれ。」
と千鶴子は顔を赧らめねだるように首を一寸傾けた。
「ああ、そんなこともありましたな。」
と矢代は笑った。チロルの氷河を渡った夜、山小舎の深い乾草の中で眠ったとき、眠れぬままに千鶴子が身動きをすると、ずっと放れて寝ているこちらにも動きがそのまま伝わって、ゆさゆさと揺れて眼を醒した一夜の寝苦しさを矢代は思い出した。もうあんなことも二度とないのだ。とそう思うと、自分の青春も今このときを最後に飛び去って行くのかもしれぬと思われ、ふと彼はあわただしげにそのあたりを往ったり来たりする人人の姿を眺めながら、時のすぎゆく早さを身に沁み覚えて来るのだった。
「もう時間でしょう。」
矢代が時計を見上げて云うと、びっくりしたように千鶴子も、
「そうかしら。」
と壁を仰いだ。乗客らは芝生へ降りて行くものも見えた。見送人は待合室から出られないので二人はまだ向き合って立っていた。客の荷物も飛行機に積まれている最中らしかった
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