えた。歩く足も右を出しているのに左を出しているような錯覚を感じ、ときどき足を踏み変えてみながら公園の外まで行って彼はそこのべンチへもたれかかった。


 翌朝矢代は早く眼が醒めたがまた眠った。そして、うとうとしてから、時計を見るともう九時近かった。コーヒーも飲まず彼は千鶴子のホテルへすぐ自動車で行って、その車を下で待たせたまま、五階へ上っていった。薄化粧もすました千鶴子はただ彼の来るのを待っているばかりだった。
「早く起きたんだけれども、あんまり早すぎてまた眠ってしまった。どうも失礼。」
 と矢代は云って笑った。昨夜の苦しい決断がこの日の朝の快活さを予想してなされたかのように、二人は打ち溶けた気持ちの良い笑顔だった。千鶴子は宿の払いも今すませたばかりだと云ったり、この天気だとドーバア海峡の揺れも少いだろうと喜んだり、あわただしげな中にももう悲しそうなところは少しもなかった。矢代は薄靄のかかった森の上にパンテオンのかすんで見える窓の傍まで行き、下の自動車を指差した。
「あれが待たせてある自動車ですから。――まだ一時間もありますが、どうします。もう行きますかね。」
「行きましょう。皆さんお
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