あなたが変ってもあたし変らないと思う。きっとあなたの方が変ると思うわ。」
「とにかく、そんなことは云ったって始まらないことばかりですからね。それですよ。僕がこんなに用心ぶかいのは。」
 こう云いながらも矢代には、今は二人の争ったことは愉しいことだったが、しかし、こんなに好意を持ってくれた婦人がこの千鶴子だったのだと思うと、また一層彼は帰ってからの怖れが心配になるのだった。現にこの日の昼間のことを考えても、サンゼリゼの伝統派と左翼との格闘のさまなど、カソリックと科学との闘争だといえば云うことの出来る精神の違いの流血沙汰だったと思われた。彼はあんなことが、千鶴子と自分との以後の生活に起ったなら、終生どこを二人の結ぶ心として生きてゆくべきなのか、これは考えれば考えるほど心中根を深めてゆくばかりだった。もし今の二人の別れが身も心もともにこのまま別れる最後だったら、それなら自分はもっと愉しむだけは愉しむかもしれぬと思った。
 けれども、矢代はこのような不用な怖れを今ごろするのも、こんなことばかりが絶えずぎりぎりと頭にかかるこの西洋に現在自分がいるからであり、また一つは、昼間のサンゼリゼの出来事を
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