った。
「たったこれだけ。もういいんですのよ。」
矢代はそれでも口を開けているスーツケースの蓋を膝で抑え留金をかけたり、古新聞をも一つのに詰めたりした。あまり重くなっては飛行機だから料金が高くなって困ると千鶴子の云うのに、古新聞は記念に良いものだからと矢代は云い張って無理に持たした。矢代から記念と云われると、千鶴子も気軽く笑い愉しそうに応じるのだった。
すぐ何もすることがなくなったとき千鶴子は下へコーヒーを※[#「口+云」、第3水準1−14−87]咐けた。ソファに向い合ってから、急に千鶴子はロンドンの兄のところへ電話をかけてみようかと矢代に相談した。
「しかし、帰る時間を知ってらっしゃるなら、何もわざわざ不経済する要ないでしょう。」
と矢代はこれにも反対した。
「でもね、兄さんにはあなたのことよくお話してあるんですのよ。ですから一度電話ででもお話しになって下さると、あたし、何かと後でいいかと思うんだけど。」
こう云って千鶴子は矢代の顔を見たが、すぐまた、
「どちらも声だけじゃ何んだか変ね。よしますわ。」
と打ち消した。火の点くように顔の赧くなり始めていた矢代もそれでほっとする
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