ありとした。こんなときでも東西に別れて二人が帰らねばならぬ事情というものは、やはりそれぞれにこれで胸中にあるのだなと矢代は思い、またそれが日本の風習である限り是非それだけは守らねば、どっちの父母からも許されぬもののあるのが、厳格極まりない日本だと思った。それはどういう理由かもう彼には分らなかったが、何んとなくそれは非常に見事な習慣だと思われ、自分が千鶴子の家と自分の家との二家の父母の許しを待つまで、君を愛すなどという言葉も千鶴子に使いたくないのも、実はただそれだけの分らぬ理由からだったとも思った。
 ホテルへ着いてから二人はエレベーターの狭い箱の中に這入り、初めて鈍い電灯の下で顔を見合せた。千鶴子は雨に濡れた矢代の胸のボタンを爪で掻き掻き、ちょっと首を傾けた嬌奢な笑顔で何か云いたそうに唇を動かしたが、その間に箱は上まで昇ってしまった。
 千鶴子の荷造りはほとんどもう出来上っているのと同じだった。ただこまごまとした物を纏めてトランクに詰めれば良かっただけだったが、それも千鶴子でなければ出来ぬ女の使用品ばかりだった。
「手伝いに来たのに何もないんだな。」
 と矢代は手持無沙汰に立ったまま云
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