させるのだった。
 しかし、久慈はここで二人の争いつづけたものは、婦人のことではなかったことを思って心も慰められて来た。
「僕らがこうしてパリの街を歩いていて、ふと自分の考えていることに気がつくと、どういうものだか、どっか胸の底で一点絶望しているものを感じるね。君はどうだかしらないが、僕はたしかにそうだ。何んというか、眼にするものを尽く知り尽そうとしていら立つ精神が、これやとても駄目だと知って投げ出された後の、まアいわば、あきらめみたいなものだよ。この街の成り立っているそもそもの初めから、人間が今まで考えて来たこと、して来たことを、全部くぐり込もうとするもんだから、絶望をするんだ。つまり、自分がたったこれだけより知らんのだと、思わせられてばかりいるんだね。」
 ある街角のところで突然久慈がこう云い出したが、皆だれもそれにつづけては云わなかった。すると暫くして矢代は笑い出して云った。
「前へ行っても駄目、後へ戻っても駄目だというんだろ。」
「そうだよ。ここは戦場と同じだね。頭の中は弾丸雨飛だ。看護卒が傍へ助けに来てくれても、こ奴までピストルを突きつけやがる。もう僕もだいぶ負傷をしたよ。」
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