れではもうこれで最後のボタンをひきち切ら[#「ち切ら」に傍点]れたのだと、薄笑いのまま彼は階段を昇ってまたテラスの光線の中へ戻って来た。
千鶴子も戻って来たとき四人は附近の版画屋を数軒見て廻った。ある店でゴッホの若い時代の写実的な版画を見つけると、久慈は、これは誰の土産にもやれないと云って自分が買った。千鶴子はベラスケス、グレコ、ゴヤなどとスペイン物を一番欲しがった。イタリア物も少し買ったが、そのついでに子供たちにやるクレヨンも買い整えてからふと見ると、日本製というマークが這入っていた。
「いや、それは何より土産だから買って帰りなさいよ。」
と皆の大笑いする中で久慈は云った。一つだけ千鶴子はそれも買ってみてまた次の店へ歩いたが、帰り支度を手伝いながら歩いている途中にも、久慈は何んとなく日本へ自分も帰ってみたくなるのだった。
「どうも一人に帰り支度をされると淋しいね。脱けかかった歯を動かしてるみたいで、落ちつかないや。」
久慈もその気ならと思ったらしい真紀子もすぐそれに応じた。
「そうよ、あたしもさき[#「さき」に傍点]から、帰りたくってむずむずして来てたところなの。ほんとにあたし
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