。それ以外の何ものでもないのだからな。化体なものさ。」
 人間の進行のうえになくてはならぬ唯一のものが、賽の目のままだったという恐るべき滑稽な大事件も、も早やここでは国民の整理癖に舐め尽され、死に絶えてしまったのであろうか。
 久慈は後ろの方から子供の賑やかな笑い声が聞えて来たので振り向いてみた。汚い一人の老人が肩や手さきに呼び集めた雀を沢山たからせ、舌の先で手の甲にとまった一羽の雀に餌をふくませているところだった。久慈は真紀子の肩を打った。
「どうだ。あれひとつ俳句にならんものかね。」
「ナポレオン見たいね。あのお爺さん。」と真紀子は笑って云った。
 老人は雀の自由なように全力を肩に張り、枝のようにしならせた腕の形を崩さず、立ちはだかったまま誇らしげな恍惚とした笑顔で雀の顔を眺めつづけた。久慈は真紀子と一緒に立ってその方へ見にいったが、すぐそれにも倦いてルーブルの方へ花壇を横切っていくのだった。
 ルーブルの横を通りへ出たところにセーヌ河があった。河ではモーターボートの競走があった。五つ並んだボートの首が、速力を増すと水面から飛び上り、たちまち見えなくなったが、久慈はそれにもすぐ倦い
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