んとにびっくりさせる方ね。もういやよあんなこと。」
「いや、事実急用だったんだよ。ゆうべ君の所へ行ってなかったら僕は今日は、こんなに暢気にしてられなかったかもしれないんだ。あのときはあのときでたしかに君が有り難かったんだが、どうも一つはあれも夜のせいらしい。」
夜と昼とで人の心がこんなに違うならいつも違わぬものとはそんなら何んだ。と、彼はパンの上皮が唇を刺すのをへし折りながら、ふとまたいつもの念いに触れかかろうとしたとき、千鶴子は欄干から降りて来た。
「あなたみたいな人どうなるんかしら。あたしそれが心配だわ。」
特に心配そうな様子でもなく訝しげな眼で千鶴子は久慈を見てから、洗面器の前の鏡に自分の顔を映してみた。ネビイブリュウの服色のよく似合うのもいつもと変らぬ千鶴子だったが、久慈は後ろから鏡に映った彼女の顔を眺めながら、今はこの人も突き放してしまった人だと思うと、何んとなく淋しい影を見る思いで冷えて来たコーヒーを飲み下した。
「君、今日はこれから矢代と会うの。」
「ええ、お約束よ。」
「そんな約束があるのに何ぜ僕のところへ来てくれたんです? 何も僕から頼んだわけじゃないんだもの。」
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