よ。」
真紀子は小卓の方へ立っていって薔薇を折ると、寝台の上に脱ぎ捨ててあった久慈の服の襟へ同じように差し、
「あなたもこれを着てらっしゃいよ。もうそんなに暑くないんですもの。」
と云って久慈の後ろへ廻った。云われるまま久慈は服に手を通した。
「花はいいものだな。花の嫌いなものはあるかね。」
「でも、お茶じゃあまりお花はいけないのよ。」
「お茶か。」
久慈はお茶の師匠にもなれる母のことを思い出し、よくそんなことも母は云ったと思いながら真紀子と向き合って立った。かすめ過ぎる化粧の匂いのままどちらも黙って何をするでもなく暫く立っていたが、そのうちに徐徐に顔が合った。
「一寸、矢代さん、もう帰ってらっしゃるかもしれないわ。電話かけて見ようかしら。」
あまり淡淡としすぎたほどの落ちつきで真紀子は久慈を見上げて訊ねた。久慈はそれには答えずドアの方を振り向いて見ている間に、真紀子はもう電話を矢代の部屋へかけていた。受け答えの様子では矢代は帰っているらしい。真紀子は受話器を置くと、
「いらっしゃるのよ。ここへ。」
と云ってさも何事もなかったように自分の椅子へ戻った。久慈も椅子へ腰を降ろした
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