。真紀子は眼を細め下から覗くように首を傾けて、
「セヴィラへ行きましようね。ほんとうよ。」
「どうも、しかし、けしからんね。矢代の奴。」
と久慈は笑いながら煙草を取り出して云った。
「あ、そう、あなただけお花とってらっしゃる方がいいわ。」
真紀子が腕を伸ばそうとするのを、久慈は肩を後へ引きとめた。
「いいよ。僕だってお花ぐらい貰わなくちゃ、パリへ何しに来たんか分らない。」
「でも、何んだかおかしいわ。また上げますからとっといて下さいよ。」
真紀子は無理に久慈の襟から薔薇をむしりとると、捨て所を索すようにあたりを見廻していてから寝台の枕の傍へぽいと投げた。久慈は白い枕とシーツの間へとまった真紅の薔薇の一点を見ているうちに、何かある清らかな聖鳥を見るような思いに胸がつまって来るのだった。
「よし、分った。」
久慈は思わず膝を打って嬉しそうに天井を仰いだ。
「何に?」
不思議そうに見ている真紀子に久慈は介意《かま》わず、
「得度したぞ。ノートル・ダムのお蔭だ。」
と云ってまた薔薇の方を眺め返した。そのとき、ノックの音がしたが久慈はもうドアの方を向こうともしなかった。心はしきりに弾
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