。」とか、「僕は好きだ。」というような言葉にしても、さて日本の婦人に向っては嘘だけ急に飛び出て眼立つのだった。そうかといって、別に久慈は心の表現に困っているわけではなかった。
 真紀子はとくからもう久慈の気持ちを察しているらしく、落ちつかなげにあたりを廻っている彼の挙動を見ても、さも知らぬふりで少し俯向き加減なのどかな様子のまま爪を磨いた。
「あなたさっき、何んだか分らなくなったって仰言ってたわね。何んのことだったの。あれ?」
 肩を動かさず顔だけちょっと振り向けた真紀子の眼が、ほんの瞬間のことだったがひどくなまめかしい嬌奢な視線だった。
「何んか云ったな。ときどき疲れるとあんなことがあるんだ。今まで分っていたことが、急にぴたりと停って分らなくなるんだね。頭の中の心臓が急に停ったみたいな風になって、中が空になるんだ。」
「神経衰弱ね、あなたも。」
 久慈は薔薇をち切ると知らぬ気に後ろから真紀子の襟にさした。
「神経衰弱は卒業したさ。ところが、神経衰弱のも一つ奥に妙なものがあるんだ。そ奴だ。」
 真紀子は顎を引き、差された薔薇を見てから、「ふふ。」と軽く笑った。
「じゃ、あなたにも上げて
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