隙のように思われて来るのだった。
「どうもこの部屋へ来ると、自分の部屋のような気がして困るな。まだこれや、僕たち旅心がぬけないんだね。」
「あたしもそうなの。他人の部屋と自分の部屋と同じように見えるのよ。でも、何んだかこんなの淋しいわね。」
「どっかそのうち旅行に行こう。セヴィラかトレドの方へ一度行きたいんだが。――」
真紀子は眉を上げた。
「セヴィラがいいわ。ね、行きましようよ。あたし、明日からでもいいわ。」
「クックで験べておこう。行くのならイタリアへでもいいが、とにかくパリ祭がすんでからだ。」
久慈はこう云って立ち上ると、何んの意味ともなく花瓶の薔薇の方へ近よっていって頭を跼めた。一度前に彼はこのような同じ動作をして薔薇をち切り、フランス流に語学教師のアンリエットの胸にさしたことがある。アンリエットは日本人専門の案内人もかねていたから、職業上間もなく次ぎから次ぎへと生徒を替え、今は久慈とも放れていたが、ときどき手紙だけは旅行先から来た。今も久慈はそのときのように薔薇を折って真紀子の胸へさしてやろうと思ったが、それも気がさして思いとまった。異国人には何気なく云える、「君は綺麗だ
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