では俺は高有明に会おう。もし真紀子と結婚しなければならぬなら、それもしよう。
真紀子がいつの間に着替えたのかイヴニングで浴室から出て来たのはそれから間もなくだった。
「ノートル・ダムの埃りなかなか落ちないのね。古いからかしら。」
「何しろ七百年の埃りだからな。もう埃りじゃない幽霊だ。」
「でも、あの蝙蝠が顔にあたったときは怖かったわ。ほんとにあたしびっくりした。」
湯上りの真紀子は洋服箪笥の姿見の前に立って髪を直し、それから久慈の傍の椅子へ坐った。久慈は何んとも知れぬ圧迫に似た重い歩みの時間を感じ、ふとそれが通りぬけると急に湯疲れの口淋しい退屈さを覚えた。思わず立ち上ると彼は髪を解きつけた浴室の真紀子の櫛を探しにいった。まだ浴室には匂いの籠った空気がいっぱいに満ちていた。彼は手首と頬とにべったりねばる暖い空気に辟易してすぐ浴室から出て来た。しかし、こんなに婦人の部屋のどこへでも無遠慮に踏み込んで行くことの出来るのも、来た船中のときから一緒だった気軽さのためとも思った。それにしても、その気軽さが却って二人の間をそれ以上の親密さに引き入れぬ妨げともなっているのは、今まで知らなかった互の
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