ぺらと頁を繰りながら、
「あの方、やはり矢代さんを愛してらっしゃるのね。そうよ。」
 と小声で云って、ある頁のひと所にじっと視線を停めていた。
 矢代は「いや、違う。」と云うことが出来なかった。彼は真紀子の視線を停めている頁はどのあたりであろうかと、彼女の来る前に探したある部分の言葉を思い出した。そこは血を吐いたマルグリットが寝室へひとり下って咳き込んでいる所へ、隣室から後を追って来たアルマンが初めて愛を打ち明ける場面で、マルグリットが優しくアルマンの熱した態度を抑える言葉である。
「そんなことを仰言るもんじゃないわ。もしそんなこと仰言れば、結果は二つよりないんですもの。」
「それはどんなことです。」
 とアルマンが訊くと、
「もしあたしがあなたのお心のままにならなかったら、あなたはきっとあたしをお怨みになるわ。またあたしがもしあなたの仰言るままになったとしたら、あなたは、それは厄介な惨めな恋人をお持ちになることになってよ。」
 というところである。矢代はこのマルグリットと同じ言葉をいつも千鶴子に向い、胸の中でひそかに云っていたのを思うのであった。もしここがパリでなくて東京だったなら、
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