しかし、自分の出場はまだこれからで何のプログラムもないばかりか、椿姫のようなオペラを見れば見る者尽く自分も何らかの意味でアルマンだと思い、またマルグリットだと思うにちがいないので、あながち自分の今夜の出場も自分ひとりの芝居ではないと気が附いた。
「本当の椿姫の生きていたのは千八百四十二年というから天保十三年あたりだな。それもここのオペラ・コミック座の桟敷でアルマンが初めて椿姫を見染めて、嘲笑されたのが事の起りだから、今夜はまア実地踏査みたいなものだ。」
「あたし、前に一度読んだことがあるんだけれど、もう忘れてしまったわ。」
と真紀子は云って腕の時計を眺めてから、
「でも、千鶴子さんも物好きね。何も他の方と御一緒のところをあなたに見せたいって、どうしてでしょう。椿姫の気持ちを味いたいのかしら。」
「そうじゃない。あの人は初め断ったところが、それは礼儀でそうも出来かねたんだと思う。それに相手がフランス人だからどんな具合いに誘惑するとも限らないと思って、誰か知人に見ていて貰って安心したいんですよ。」
「そうかしら。でも、おかしいわね。」
と真紀子は薄笑いを泛べ机の上の椿姫を手にとってぺら
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