明するのに困るらしい千鶴子は、
「それや、兄がこちらにいるからでしょう。別に何も云いませんでしたわ。」
と短く答えた。
「しかし、兄さんも御心配じゃありませんでしたか。パリへあなた一人でいらっしゃるの。」
「そんな事、兄なんか心配してくれるものですか。それに、お船の中のお友達のこと、あたし兄に話したんですもの。」
矢代は黙って頷いたが、千鶴子の一人旅は良い結婚の相手の選択の機会を彼女に与えるために、兄も両親も赦したのにちがいないのであってみれば、自分が千鶴子へ馴馴しくすることは、それだけ彼女の良縁を払い落す結果になっているのかもしれぬと思った。
しかし、ヨーロッパへ来る婦人たちは、男性と違って自分の研究目的を明らさまにするのを嫌う習癖の多いのを聞き知っていたので、千鶴子もこれでひそかに研究する何事かあるのだろうと矢代も思っていたのだった。
「千鶴子さんはわざわざパリまでいらしって、何か研究してらっしゃればいいでしょう。そんなおつもりなんですか。」
「あたしはただ見るだけにしたいと思ってますのよ。でも、あたしなんか、何も出来ないつまらない女なんですもの、ですから、まア普通に働かねば
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