ならない方に比べて幾らか仕合せな方だから、なるたけ与えられた仕合せだけでも、楽しく守っていなければ、罰があたると思いますの。ね、そうじやありません。」
 千鶴子の考え方には矢代もすぐ返事をすることが出来なかった。自分の幸福なときにその幸福を守りたいと願う婦人の苦心が、いかにも一見反省の足りない考えかのように思われがちな社会になりつつあるのだった。
「あなたのお考えにはなかなか大胆なところがあるんですね。」
 と矢代は当面の答えとして先ず安全と思えることを云った。
「だって、あたしたち、なかなか幸福は得られないんですもの。あたしには少し人より早く幸福らしいものが来たんですから、やはり大切にしたいわ。あたし、何んでもそう思いますの。いけないかしら。」
 千鶴子は優しい眼ざしで矢代の眼を窺った。
「それや、それより本当のことってないんですからね。誰も彼もみなあなたのような気持ちになりたければこそ、騒いでるんでしょう。今パリがそうだ。」
「そうかしら。」
 千鶴子は思いがけないことを云われたように微笑しながら、梢の間に動く早い断雲に眼を向けた。自転車に乗って来た子供の太股の白さに日光が射してい
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