、それ故に最も重要な憂いは、何んと云いましても、現在では原子核の作用に関する憂いであります。」
 何を云い出すのかな、と久慈はまた東野の講演の方に耳をひかれた。
「御承知のように、物の本質をなすこの微粒子の中心には、刎ねつけあう電気の争いと、磁力の牽きあう愛情とがあります。しかし、何ゆえにその二つのものが、一つのものの中にあるかという憂いの根幹の詮索に、地球上の全物理学者の関心が高まりました際になって、突如として、このたびの戦争が起って参りました。そして、その憂いの根本も分らなくなったのであります。再び空空漠漠――この漠漠たる空の中に、私らは立って、何を念じ、何を呼び起そうとすべきでありましょうか。秩序であります。この秩序を求めてやまない私らの心は、ただ坐して得られるものではありません。忽然念起――忽然として念じ起たねばなりません。文学も、哲学も、宗教も、新しい愛情さへも、発足点をここに念じて、出発すべきであります。」
 日比谷からは拍手があがった。真紀子も愁眉を開いた。
「何やらうまいこと云ったね。」
 と平尾男爵は傍の矢代を見返って云った。室内のものらはみな笑った。下の部屋の方へ降
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