顕われたかと思うと、尊徳の歌が引っ張り出されたりした。その間を自在に縫いつづけて、秩序を形造る共通の確率をたぐってゆく労苦は、たしかに東野の憂いにちがいなかったが、料亭で空の美しさを語った彼の真の憂悶は、一向に顔を出しそうな気配もなかった。
 久慈は講演に少少退屈した。そして、真紀子の態度にいつか注視しているのだった。万暦の大鉢の前で真紀子は伏眼のまま、長い瞼毛に心配そうな陰影を湛えて東野の講演を聴いていた。やや俯向き加減のなだらかな上体が、腹部のふくらみに集まり、うっすらと腰部の窪みを描いて両脚に下っていく真紀子の線を見ながら、久慈は、ふと自分を愛撫してくれた真紀子の情愛のふかさを思い出した。あの線、この色と、泛んで来るなやましい姿態の数数の閃めき、飛びうつる表情の流れが、今、ぴったりと金魚の乱れる大鉢の胴の前に静止している慎ましやかさ、――それも、みな東野への愛情に変っているのだ、自分のものだったそれらのもの皆が、いつの間にか東野にささげる供物になり変ろうとしている刹那だった。
「このように憂いの種類には、大小さまざまなものがあります。しかし、どのように云いましょうとも、最も小さな
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