りていくものらの中からも、階段を踏み下りながら、「忽然念起」と呟く声が聞えた。それは冷かしのようでもあれば、真面目なようでもあった。久慈は、公衆に対って云っている東野の声の中心が、意識の底でこの部屋を対象に放っている声だと思った。そう思うと、同時にそれは妻を失った東野の真紀子に送っている艶文のようにも聞えて来るのだった。それも過たず矢は的に命中していた。



底本:「旅愁 上」「旅愁 下」講談社文芸文庫、講談社
   1998(平成10)年11月10日第1刷(上)
   1998(平成10)年12月10日第1刷(下)
底本の親本:「旅愁」改造社
   1950(昭和25)年11月初版発行
入力:kompass
校正:松永正敏
2001年9月13日公開
2007年9月1日修正
青空文庫作成ファイル:
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