タイをし、矢代の知っている久慈とはまるで変った服装で、やや長めの髪を撫で上げた、一見未来派の彫刻家か建築家に見える様子だった。太巻の蘆の素簾の巻き上った廊下から矢代を見つけた久慈はすぐ寄って来て、
「どうだ。」
と一言、膝長く、日に灼けた顔立ちを近づけた。はるかにへだたった遠い海をおし縮めて、よりかかって来たような水色の、漠漠とした空気が一瞬飛び散り、しんと二人で静まり込んだ形だった。
「また行くとは、どういうものだ。」
「うむ。」
久慈はただ無意味に呟いただけで、ゴールドフレークの蓋をあけ矢代にさし出した。呼吸も聞きとれそうな一本の煙草を抜きとるのも、指さきに、血の滴りつく思いで、矢代は懐しかった。
「海は暴れたか。」
「いや。」
「病気はすんだの。」
「まだだね。」
夕闇の降りた胸の間で、久慈はダンヒルの点火器の頭をぼっと燃やし、また矢代にさし向けた。そして、庭前の緑の葉を潜り流れている水の涼しさを眺めたとき、さもうるさげに視線を反らし、始末に困った佗びしげな薄笑いで一寸あたりを見ると、こちらを見てる千鶴子と眼が合った。
矢代は戦友の匂いをひと嗅ぎしてみるように、煙草の煙を
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