自分の身勝手ひややかにすぎ、それでなくとも延びている二人の間を、一層ひき延ばそうとする美しからざる不自由さも生じて来るのだった。これは思いがけないことだった。今さらにたじろぐ要なくとも、この微妙な一点で足踏みすべらせば、万事を瓦解に導く悲喜劇そちこちに見られるように、千鶴子の母にも、戦争が与えている動揺のきざしなしとは思えぬあたりの空気を、塩野は久慈に何んと洩したものか、そこにも矢代には計りかねるところがあった。
「君より僕の方がどことなく適任者は、うまいなア。」
 と矢代は久慈の手紙を前にしてひそかに苦笑した。ラスパイユの祭の夜、檻の中の電気自動車の遊び場で、千鶴子の胴に狙いを定め、得意な薄笑いで突撃して来た久慈の剽悍な眉もちらりと泛んだ。ピラミッドの穴の中を昇る暗中、喘ぎ喘ぎ鉄桟を切なく攀る千鶴子の手を、しっかり支え引き上げていた久慈の姿も泛んだりした。久慈の責任というのも、当時のその姿を彼も思い泛べての意であろうかと、矢代は遽に虚を衝かれたように手紙を畳み、マッチを擦った。

 久慈の手紙を見てから三日後、東野の講演会が日比谷であるので、同夜久慈や大石の歓迎を兼ねて集りたいと、塩
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