あるに相違なかったが、それにつけても思い出すのは、いつか塩野が横浜の埠頭で、小父から持ち出された縁談の処置に苦しんださまを矢代に話したときの事である。塩野のは、やがて起りそうな戦争を前にしては、結婚の意志あるなしに拘らず、一応ためらう良心の置きどころの苦しみであったが、今は予想ではなかった。現に戦争の起っているときであれば、誰しもこの事から超然とはしがたい悩みふかまる内心の問題であり、おそらく久慈も立ち騒ぐ周囲のものらの言動にことよせつつ、蔽いきれぬ彼の悩みも、文面多忙な匂いに変りむら立っているのかとも矢代は想像した。
それにしても、矢代は自分と千鶴子との間に関することには他から触れられたくなかった。このような際の結婚の問題は、平和な日の結婚の内容に傘かむって来る自分の気持ちがうるさいばかりでなく、さらに相手にも同様に増して来るその傘を、払い除ける手間ひまの煩わしさに加えて、要らざるこちらの腹さえさぐられる不愉快さも量を増し、ために日ごろの良質のものまで姿をかき消す惧れもあった。千鶴子の場合にしても、矢代は、今まで結婚を延ばしている身でありながら、戦争となるや突然急ぎ出す挙に出れば、
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