と、妹の幸子が告げて云った。
「妙な方だわあの人。一度さようならと仰言って外へ出てから、また戻っていらして、今度上海へ行くことになりましたから、そう仰言って下さいって。」
「何も妙なことないね。」
「それが、どことなくおかしいのよ。そうね。」
幸子は表現に詰ったもどかしげな表情で、
「何んといったらいいんでしょう。ハイカラなくせに、ちょっと図図しいの。でも、これはひどく云ってみてのことだわ。」
矢代には久慈の変化の仕方がそれで分ったようだった。いきなり相手の中へ踏みこむ癖も、多少は前から久慈にあったところへ、人を瞶める眼に、調節を忘れた異国風が出たのであろう。しかし、あれほど争いつづけた彼が訪ねて来てくれたことは、二人の争いが互に無意味に終らず、また無事落ち合えた思いで矢代は喜びを感じるのだった。思ってみても、久慈とは自分は事ごとに争ったものだと、矢代はその夜また考え直した。それは熱病のようにどちらにも襲いかかり、争いすなわち生活のようなものだった。二人にとってもしあの争いがなかったら、生活の香のする活き活きしたものは、あの旅では得られなかったかもしれない。異国での二人の奇怪な修業
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