だった。矢代はすぐ懐しさに久慈に手紙を書いた。
「旅先で僕らのしばしば語り合ったように、とうとう戦争が起って来た。あれはラスパイユのホテルだったか君と高有明君と、僕らで論じ明した一夜のことなど、今はそのままになろうとしている。
実際、僕と君との果しなかった争いを思い出すと、みなこの戦争の際の準備だったようで、僕には多少気味が悪いのだ。それも無意識の僕らの準備だったことを思えば、あれもこれも、みな神さまが下さったものだろう。僕はこのごろ幾らか神がかりになっているので、人がかりには倦怠を感じて仕様のない状態だ。千鶴子さんとの結婚のことなどにしても同様で、この点、僕らの結婚を早めることは両人にとりあながち幸福とは限らず、むしろその反対の結果を来す惧れなしとせぬところもあって、実はいまだに停頓している意気地なさでもある。女のことを考える暇があるなら、神さまのことを考えろ、と云ったフロオベルの剣先も、彼の故郷のルーアンを訪ねたころから折折に泛ぶ僕の物思いとはいえ、千鶴子さんの念じる神、君の信じる神、僕の拝する神など、――神に二つはない筈だのに、それを思うほど、どうしてこんなに狂ってくるものだ
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