へは以前のごとく通勤し、ある大学の講師も、週二時間ばかり出席をひき受けたり、ようやく彼の身辺も多忙になった。
 梅雨明けもまぢかく、軽雷のとどろくころになりながら、幾日もの蒸し気で汗が出た。ある日矢代は、久木会社の文化部で催された会合へ出ようとしている午後のこと、北京の郊外で、中国兵と対立していた日本軍の一隊が、中国軍の発砲に対してついに応えたという号外を見た。記事はごく簡単なものだったが、含まれた意味に群がる嶮しさ只ならぬ空気が満ちていた。
 通りを歩いている人人の表情も、言葉少く俯向きがちのものが多かった。鋪道に撒かれた打水の飛沫が、剣尖のように色濃い鋭さを描いて足もとに迫り、歩きつつ矢代は、首筋にねばりつく汗を幾度も拭き拭きした。会場の支那料理店の日本間には、社から招待した先客多数が集っていた。それぞれ顎を胸に埋める風にし、壁にもたれた背も、動きが見られず息苦しそうだった。
「暑いね。」
 たまにこういうものがいても、誰も黙って顔を見交そうとしなかった。
「大変なことになったもんだね。」
 と矢代は同僚の一人に云った。
「一大事だ。」
 同僚は眼鏡をせり上げたが、すぐ内から引き摺
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