もそのまま蟻を捨てて置いた。すると、半時間もしたころ、蟻の大群の一角が舐めたように縮小していた。そして、全体が光線の射す廂の方へじりじり移動しつつ、直接日光をうけた柱の角までくると、そこからそれぞれ、空へむかって飛びたった。小粒で数万の大勢ながらも、初めから秩序整然としていて、誰か号令するもののあるような風韻ある動きで間もなく、あたりには一疋の姿も見えなくなった。
 白蟻のこんな活動については矢代は前にも、幾度か本でも読んだことがある。しかし、この虫類のしなやかな本能の世界が整然と群団をつらぬき、統一を紊さず地中から空色で生れでて来て、そして、またたく間に空の青さの中にかき消えた姿は、眼のあたり、ぽとりと一滴の神水を落されたまぼろしに似ていた。ここでも何ごとか旅立ちがなされていたのだった。
 彼は蟻の立った柱を叩いてみた。中に空洞のあるらしい乾いた音を聞きながら、彼は自分と千鶴子との結婚も、こうして巣だってゆこうとしている旅立ちに似ているとも思った。
「この家の土台を変えなくちゃ――」
 と、また矢代は柱の下の黝ずんだ台木に指を触れて云った。

 家を改造するにあたり、大工をとよの主人
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