角に柱があって、そこに一分ばかりの小さな穴があいていた。その穴から白蟻が噴きでて来た。ぶよぶよした半透明の翅のある蟻で、初めは数十疋のものがしだいに数を増し数千疋の大群となったかと思うと見るまに一面煙のように溢れ、あたりの壁や柱に附着した。
今まで彼はこのような事は一度も見たことがなかった。うす靄の軽くかかった好天の日で、日に透けると白蟻の翅は美しく薄緑に光った。まだ生れて以来使ってみたことのない翅と見え、蟻はそのままねばりついたような翅のよじれを解きほごす準備にかかっているらしかった。
動き廻るわけでもなく、じっと附着して自分の位置を守り、整えた翅をただかすかにふるわせてみているだけである。
別に大事件というわけではないが、家という建物自体に起った出来事としては、この蟻の大群は近来稀な現象といってよかった。
「これはどうだろう。この部屋全部壊して、一度建てかえなくちゃ、――いつの間にやら土台に巣があったんだなア。」と矢代は洗面に降りるとき立って母に云った。
「もう、はたいても、はたいても、幾らでも出てくるんですよ。」
あまりの見事さにしばらくは珍らしく、眺めていたい気持ちで母
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