それをそのようにせしめたものが、自分の方にあるのを感じた悲しさにちがいなかった。また、これでもし自分が千鶴子の場合だったらどうしただろうかと、そう思うと、どんなに相手を愛している場合でも、もし自分だったら、――矢代はそこをもう考えることが出来なかった。それは恐しいことを予想せしめてきりのないことだった。そしで、おそらくそのときには、自分ならむしろ死を選ぶかもしれない信仰上の破滅だった。たしかに根を切りとられた切っ羽つまった苦しさが、突如胸のどこかに撃ち返って来て彼は涙がこぼれた。
「自分はこの女性をとうとう責め殺した。」
 矢代はまたそう思うと、一層涙がとまらなそうになり、ついバスルームの中へ這入っていって、そこで手を水で冷やして出て来てから窓際へ立った。本能寺の上に出ている星が一つ強い光を放っていた。彼はその星を見ているうち気持が透明に冷え落ちていくのを感じた。力が急に無くなっていくようだった。何か寥しい、あきらめに似た、今までまだ感じたこともないさめ果てた空しい気持だった。
「あそこの家のすぐ裏に、本能寺があるんですよ。」
 窓へ片肩をよせ、無意味に矢代は斜め左方を指差しつつも、ど
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