こかへ一人でたち去って行くような、もの寥しさをますます感じた。それはまったく予期しない寂寥だった。
「どこ。」
窓際へよって来ても、理解しかねた千鶴子はきょとんとして、別に寺を見たい様子もなく、会館からはね出てくる人の流れを眺め、今夜は東京から来た音楽家の演奏会があったその崩れだと告げた。矢代は結婚のことはもう考えたくはなかった。それにしても自分の心が自分の手でも掴まれぬ怨めしさは、今に限らぬことだったが、二人の間から擦りぬけては流れ出ていくこの仕業は、何ものの誘いであろうかと矢代は星から眼が離れなかった。
「明日はもう帰らなきゃいけないでしょう。」
「ええ。でも、私はいつでもいいんですの。」
「見残した庭も沢山あるんだが、――」
今の自分は寺の庭も見たくはないと思った。一本の笛の音が澄み透って来るような空の眺めだった。千鶴子は上唇に細かい汗を浮かし、何か云いながら、ときどき身体を廻し、落ちつかなげに下の通りを見降ろしたり、腕の時計を覗いて見たりした。その様子は窓際で戯れている蝶に似た身軽さで、どこか断ち切られたもののひらひら舞う姿に見え、矢代には悲しかった。
しかし、考えれば、
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