でしょう。あのころは、石を生きものと見たのですからね。」こう云ってから越尾は、「これは僕のは、Bかな。」と由吉を見て笑い返した。
「俺はAでもなけりゃ、Bでもないね。そんなの、一つぐらいあったって、良かりそうなもんじゃないか。ないのかい。」と由吉は槙三に対って訊ねた。
「それは同じ問題で、Aの公理も正しければ、Bの公理も正しいということは、たしかにあるのですよ。例えば、御存じの二つの平行線は相交らぬという公理も、無限の彼方ではその平行線は相交るという公理だとか、または、平面上の三角形の内角の和は二直角なりという公理も、球面上ではそうではない、といった風な公理になるとか、とにかく、どっちも正しくて、間違いだとは誰も云い得ないことですよ。しかし、AとBとは違うという、この排中律の定律に従いますと、数学とは限らず、僕らや皆さんのどんな考えにしてもですね、正しいと考えられていることが、厳密に考えれば、どちらか一方が不正になるという定律にまでなるのですから、――ともかく、数学で一番難しいのはそれなんです。つまり。論理的にはどっちも正しいに拘らず、一方が必ず間違いだという論法になると、世の中の一切
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