た。
「そのお説は、世の中で一番難しい問題じゃないですか。まさか、あの庭の石にそんなものまであるとは思えないけれども、新説としては、たしかに今までにないものですね。」
と越尾は、今まで一度も存在さえ考えなかった彼の方へ向きかかって、若い槙三の顔を注意し始めたようだった。
「僕のはただ数学上のこととして云ったのですが、数学では、どうしてもAはBとは違うので、同じではあり得ないのです。しかし、あの庭の石が、京都文明の絶頂を示すものなら、勿論、この排中律という認識上の頂きの苦悶が何らかの形で、石の根に埋められていなければならぬものだと、僕は思うのです。もしそうでなかったら、そこに含まれた文明というものは、頂上でも何んでもない、ただの南洋土人の玩弄する、石と変りないと思いますね。」
和いだ云い方ながらも、槙三の言は鋭く越尾の史観を刺していた。
「どうも困ったね、話がAとBとに分れて来たぞ。」
と由吉は後ろへ反って、ひとり、舞妓の並んだ顔を無遠慮にじろじろ見較べた。
「しかし、龍安寺が禅寺だといったところで、そのころ、近代数学がそんな発達をしていたとは思えないんだから、やはり、も少し違う石
前へ
次へ
全1170ページ中1116ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング