矢代は今まで黙って隅で笑っていた槙三に訊ねてみた。実は、さきから矢代はその機会をひそかに待っていたのだった。槙三は彼から訊ねられると、いつもの明瞭な口調で躊躇の風もなくすぐ答えた。
「僕はああいう、はっきりした簡素な庭を見せられますと、自分は日ごろ迷っていた問題に、直面した感じになるのですよ。それはですね、人間の考えというものは、煎じ詰めると、AでなければBで、その二つのどちらかの中へ入りましょう、それはどんな人間の、どんな考えでもですが、――御存じでしょうが、数学ではこれを、排中律と呼んでこの定律を認めておりますけれども、あの石の庭を作った人の頭も、そんな排中律と同様な形而上の世界と、形而下の世界との境界に、石の碑を記念としてうち樹てたかったんじゃないかと、ふとそんなことを考えてみたのですよ。」
そこまで槙三が云ったとき、廊下の方から舞妓が三人入って来て、揃って畳に両手をつき正しい挨拶をした。髪に挿した簪のびらびらが、月を映して揺れなびき烈しい眩ゆさで光りつづけた。一同の者らは一寸その方を向いたが、槙三の話はもう皆の頭の深部へ突き刺さっていたらしく、誰の表情も崩れようとしなかっ
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