ていった。
矢代の足先きに花のようなものや、道と芝生の境いの籠目の金がひっかかったりした。少しわき道をしたために、これだけ道を迷うとはどういうものだろうと、矢代はいら立って来たが、しかし、それより、夜中ここで婦人を一人歩かすことは虎に餌を与えるのと同様な、恐るべき解禁のブロウニュの森の中である。千鶴子に闇中何者が飛びかかるか知れない危険を思うと、矢代も彼女の手を曳かずに歩いた自分の無謀を今さら恥かしく、もどかしく歎かれて来るのだった。
「千鶴子さん。」と矢代は呼んでみた。
「ここですのよ。」
そう云う千鶴子の声は意外に遠くの方から聞えて来た。
「危いから待っていらっしゃい。」
矢代は樹に突き当ってもいいと思って勢いよく声の方へ進んでいき、
「あなた、それで見えるんですか。」と訊ねてみた。
「暗いのね。」
と千鶴子は矢代の声も聞えない風だった。ここの造園家は夜の人間の眼まで考えて樹を植えたのだと、急に矢代は幾重にも落し込む陥穽《おとしなな》を見る思いで腹立たしくさえなって来た。しかし、千鶴子に声を出させることは、今は、闇中に迷っている彼女の在所を潜んでいる虎に教えることと同様だっ
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