火の色だった。
 山の裾が平野の中へ消えて来て、葉さきを曲げた芒の向うに、入日をうけた海が大きく空に残照をあげていた。暮れかたむいて来る芒の中の野路には人影もなかった。
 矢代は細い村道の集りよった辻まで出たとき、そこから後を振り返って見た。通って来た自分の家のある村は、はるか後方に退って見えなかったが、城山の峯だけ一つ疎らな人家の屋根の上からまだこちらを向いて立っていた。脇息のように二軒の屋根を両肱の下に置き、やや身を傾けさし覗いている様子であった。偶然の好位置から振り向いたといえ、沢山並んだ他の峯峯のどこも姿を消している中から、ただ一つ覗いていてくれたその様子に、彼ははッとして襟を正し、「おい、一寸」と車夫を呼びとめた。上り気味な片肩の表情には、永い退屈さもやっと通りぬけたと云いたげな寛ぎがあり、文句なく、遠い先祖が起き上り黙って彼を見送っていてくれた姿に感じた。
「どうも、すみません。今日だけは赦して下さい。」
 矢代は帽子をとって軽く頭を下げてから、また車を降り、山の方へ向き変って鄭重に礼をし直した。
 夕焼の拡りを半面に受け、老人らしく眩しそうに身をひねってはいるが、立てば背
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