墓場がまだどこだか分らず、それまで父と一緒に、先祖の憩う姿を彼は見て置きたかったまでにすぎなかった。
草の中に石垣が多くなった。そして、山の上近くかかったとき、枯松葉にまみれた巨石があたりに散乱している平坦な場所に出た。彼は薄青い乾いた苔のへばっている石の面へ鼻をつけたり、爪で掻いてみたりした。羊歯や蔦蔓の間から風化した切石が頭を擡げていた。肩の部分にあたる山梁を廻ると、小高い頭の位置の所に黒松が群がり茂っていて、梢をかすかに松籟の渡るのが聞えた。谷から迫りのぼって来ている石垣も崩れ曲み、今も石垣とは見えずゆるみ拡った隙間に朽葉や土が詰っていた。
矢代は頂きの石の上に腰を降ろして休んだ。黒松の幹の間から海の見えるのが、ここに棲ったものの今もなおする呼吸のように和いだ色だった。葛の葉や群る笹の起伏する上から遠ざかったむかしのころの面影を想像してみても、たしかにここには、父に繋がるもののかつて刻んだ労苦の痕跡が感じられた。彼は骨箱を松の枝にかけて暫く耳をすませてみた。しかし、今の矢代に通い匂って来るものは、峯から峯をわたって来る松風の音ばかりだった。それはもうむかしの響き轟いた矢筒の音
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