て行くホームに残った黒い鉄柱の足影が、過ぎゆくものの落した姿のようにさみしく朧ろに霞んだ。ホームの屋根の間に満ちた薄霧の中に光線の川が流れていた。その下で、箒を持って動く駅員の姿が、漂うひとときの哀愁を掃き集めているようで彼の眼に沁みて来た。
「じゃ、ちょっと行って来ます。」矢代はベルの鳴り出したとき母を見た。
「お頼みしましたよ。気をつけてね。」
母の後ろで笑っていた幸子の顔が泣き出しそうに緊った。矢代は踏段に足をかけたまま二人から遠ざかっていった。寝台に戻ってから車内の鎮まるまで、彼は上衣も脱がず暫く長くなっていた。頭の傍のスーツの中の父と、先日東野の持って来てくれた結納の金糸銀糸の鶴亀が、辷って行く車の方向に多忙な犇めく混雑を感じさせたが、間もなくそれも、トンネルを脱け出る空を見る思いで、次第に明るく展けてゆくのだった。
箱根をぬけ沼津へかかったころから彼は眠くなった。しかし、彼はうつらうつらと眠りながらもまだ何かしきりに考えている自分を感じた。明朝は早く眼を醒さねば困る。夜の明けるのは琵琶湖の見え始めるころだとすると、少くとも石山あたりで起きていなければ、すぐ逢坂山にさしか
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