。それに一寸、松の枝ぶりの柔い線を配してある結構なんて、ちゃんと伝統も失っちゃいない。これが活眼というものだよ。実にはっきりと、美しさというものの本質を見極めているのじゃないか。」東野の振り仰いでそう云うのを、少し真紀子に味方をし始めて動いてきたなと、矢代は思った。
「もっとも、僕はこの干網に失礼はしたくはないが、こうして、傍に光琳のあやめにいられちゃね。」
「光琳のは有るべき難しい肉を払い落しているよ。同じ肉を落すなら、初めから網や柱を選ぶ方が、徹底している。頭のいい絵さこれは。」
「まア、どっちも人間が一人もいないから、美しくなったのだなア。」矢代は、ともかく云わせて貰っただけの有りがたさを絵から感じ、ベンチを立った。
「うむ、それそれ。」と東野も烈しくもならず、気に入った笑顔で矢代の肩を優しく叩いた。「これはどっちも、描き良いのだよ。僕等は物云っては腐っちまう、人間のことばかり書かなきゃならんのだからね。」
「いや、腐るもの、それが良いのだ。」
矢代はそう云いながら、ほの暗い仏像の並んだ次の部屋へ這入っていった。ここではもう争うものは一つもなかった。群った男体女体の美しい仏たち
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