と矢代は光琳のあやめ図の前で、傍へ来た千鶴子に云って、モネーの睡蓮の図と思い較べた。東野も光琳には満足した微笑を泛べて動かなかった。
「しかし、この友松も良いよ。ピカソならきっと光琳よりも、この友松を採るね。」と東野は、後ろの反対の壁にある干網の雄勁な屏風絵の方を振り返った。
 二つを比較するのに身体を逆に動かさねばならぬのが、印象を壊して落ちつかなかったが、それぞれもっとも単純化を狙った二つの絵の新鮮な美しさは、観るもの二人をして争わしめるだけの力があり、その前から去りがたかった。
「諸君はどっちかな。御婦人がたは。」と東野はベンチへ反り気味に婦人たちの顔を見上げた。真紀子は、
「あたしはこちら。」と友松を指差した。
 千鶴子は黙っていた。矢代は光琳のあやめ図の形象が図案化しているにも拘らず、遠近のはっきり出ている写真以上の高い象徴性から、元禄という文明のなみなみならぬ高さを感じて嬉しかった。これこそ不滅のものだと自覚した。悠悠たる作者の精神がそこにあった。その光琳の絵は装飾にちがいなかったが、装飾という儚ないものの中から、生命の高潮した姿を捉え、そこにまさに固ろうとした刹那の美の
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