でいて、矢代も黙って彼に頷くのであった。文字を書くことを専門としているものは、東野のみならず、結局は何らかの意味で、世界の誰も彼もひそかにパリと闘っているらしい風だった。
上野の博物館が石造の建築に変ってから、矢代たち誰も中へ入るのは初めてであった。一見したとき、矢代は、パリのモンマルトルの丘上を仰いだ瞬間に眼に映ったサクレクールの寺を思い出した。そして、も早や、博物館の屋根にまでカソリックは来ていたのかと思った。荘重で古典的な偉容を具えた明るさであった。異国の街街を歩いているとき、先ず初めに旅人は、そこの博物館を観て、その国のおよその文明を一瞥のうちに感じとるのが便法である。この自然な見方に応じるためにも、この博物館は相当の品位を保っていたが、この日の陳列品にはそれにふさわしい目立ったものはあまりなかった。ようやく光琳のあやめ扉風と、友松の干網の図が光っているだけだったが、しかし、この二つはともに優れたものだった。その他陶器には宋窯の滋州壺と、李朝の青磁が麗しく、日本物では織部の鉢に一つ、それから楽の長次郎が一個というところだった。
「この絵、モネーがいれば見せてやりたいね。」
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