って来たのかもしれないね。」
 東野は矢代のそう云うのも、もう聞いていない様子でひとり足早やに先に歩いた。
「けれども君、そんなことは、僕らがいかに心配したって駄目なことだよ。」と東野は云って、また矢代をぐんぐん押しつけるように寄って来た。「僕らにとって究極の大切なことは、ソビエットみたいに人間に科学性を与えることよりも、中国みたいに想像力を人間に与えることだよ。人間の精神を知らすことさ。互にどこも科学ばかりが発達して、相手の精神を知らずにいちゃ、人と人との間の政治は悪くなるばかりじゃないか。そんなら悲劇は増すばかりだ。科学じゃ、精神は分るものじゃないからね。僕らがこうして博物館へ行くのも、つまりは、精神を知りに行くということだよ。人間が人間の良さを知りに行くというもんだろ。僕はこれを云うと、人から袋叩きにされるんだが、――君、僕は外国から帰ってから評判がひどく悪くなってね、手も足も出ないのさ。しかし、一人ぐらいは僕のようなことをいうものもいなきゃ、その国は駄目になるよ。国だけじゃない、世界もだ。」
 分りきったことながらも、東野の云うことには、帰朝後に生じて来た彼の新しい苦しみが滲ん
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