本当のことだよ。」
「なるほど、それは素晴しい表現ですね。」と矢代は感心して云った。
「そうだよ。実に立派だ。」
「平和というものは、そういう表現力にひそんだ力にあるなア。」
「僕らはそういう心を拾い上げて、機会あるごとに、それを巧みに云いふらさなくちゃならん務めもこれであるんだが、とんと皆は、忘れてしまうんだよ。僕は近近一度、中国へ行こうかと思っているんだ。小学時代からの友人が中国へ行っていてね、蒋介石に好かれているんだが、この男が来い来いと云って聞かないんだよ。」
「あなたの中国行きは、硯を探しに行くんですか。」と矢代は訊ねた。
「いや、そういうこともあるけれども、しかし、これで中国という国は、そこは日本と違って、文学者を非常に信用してくれるところだよ。文学者だけは、謀略をしないと信じ切っている。そういう伝統がむかしからあるのだね。他のもののいうことは、直覚的に、少し割引きして話を聞いているところも、文学者にはそうじやない。小谷もむかしは文学青年だったものだから、多分ひとつはその誠実さがまだ残っていて、そこが蒋介石の気に入ったところかもしれないね。」
車が上野の杜の中へ這入ってい
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