。」と東野は自動車の中で一寸首をひねり、そして、考えながら云った。「ね君、暗算が迅いということは、頭が良いというより、勘だからな。それだけ間違いを起しやすいという危険でもあるだろう。フランスなんか、勘定はいちいちお客の前で、紙を出して、寄せ算をやってみてから、それから答えを云って、お釣をくれるね。その釣りも、間違いをやっても損を少なくするために必ず小さい銭から先に出すが、日本のは反対か、あるいは一緒だ。」
「引き算は殊に外人は遅いようだね。」と矢代も思い出して云った。
「そうだ。あれは引き算を暗算でするのは、出来ないんじゃないかと思わずほど、のろのろしてるね、しかし、それというのも、誰もいちいち紙で書いて、答えを出す練習をしつけているからだよ。つまり、暗算という算術は上手だが、それだけ紙を基本とする代数がみな上手だということだ。そういうことは云い換えてみると、国民一般の頭が、もう算術という現実の世界と直接に動く平面的なものから離れて、代数という立体的な、抽象の世界で生活をしているという証明になるんだからね。これでなかなか、西洋と東洋というものは、開きが大きいよ。この開きを日本がどうする
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